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バレエ@映画館:レビュー|『不思議の国のアリス』英国ロイヤル2017/18シネマシーズン
2017/12/13
英国ロイヤルオペラハウスのシネマシーズン2017/18(作品ラインナップはコチラ)。
バレエやオペラの公演が映画館で観られる恒例のこの企画、そのバレエ作品第一弾となる
『不思議の国のアリス(原題:Alice’s Adventures in Wonderland)』
を観てきたので、コーフン冷めやらぬうちに感想などをまとめました。
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Contents
タイムスケール(上映時間・休憩など)について
日本での公開に先立って生中継された時(2017年10月23日)の映像を録画したものが、そのまま上映されます。
上映タイムスケール
解説・インタビュー | 18分 |
◆1幕 | 48分 |
(休憩) | (10分) |
解説・インタビュー | 10分 |
◆2幕 | 29分 |
(休憩) | (10分) |
解説・インタビュー | 15分 |
◆3幕 | 53分 |
トータル上映時間:3時間13分 |
休憩の間はずーっと幕を閉じた舞台が映っていて、休憩の残り時間が分単位で表示されます。
『デジタルプログラム』について
簡易版の配役表とあらすじだけなら、英国ロイヤルのこちらのページ(PDFのキャストシート・英語)のキャストシートに掲載されています。(ちょっとマニアックな英国ロイヤルファンである筆者は、いつもスマホにPDFを保存しておき、キャストを確認しながら鑑賞します。)
上映中、たびたび『詳しくはデジタルプログラムを見てね』的なお知らせが入るのですが、こちらには製作過程やインタビュー、作品についての解説などのコンテンツが含まれます。
『デジタルプログラム(英語)』は、こちらから入手可能(有料・ユーロ建て)です。
『不思議の国のアリス』筆者の感想・レビュー
2011年に英国ロイヤルで初演された『不思議の国のアリス』。
音楽・振付・舞台装置・衣装、全てに英国ロイヤルのエッセンスがギュギュっと詰まっています。
幕が開いた瞬間から最後まで、中だるみゼロの疾走感。見せ場に次ぐ見せ場で目が離すスキが全くなく、終幕時には脱力しちゃったくらい。
見どころだらけでどこをどう切り取って感想を述べればよいかわからないほどですが、特に印象に残ったシーンを挙げてみます。
踊り以外の部分について
プリンシパル:アレクサンダー・キャンベルのMCぶり
今回、英国ロイヤル・シネマシーズンの司会進行役としてすっかりお馴染みのダーシー・バッセル(元英国ロイヤル・プリンシパル)の横に立っていたのは、英国ロイヤルの現プリンシパル、アレクサンダー・キャンベル!
2017年10月のワールドバレエ・デーでもマイクを握って進行役を務めたキャンベル、現役バリバリのプリンシパルなのですが、本業でもおかしくないくらいほどおしゃべりも上手で、びっくり!("PR担当"とかあるのかな?)
ソフトで人懐っこく、さわやかな印象のキャラクターはMCにぴったり。しかし次の『くるみ割り人形』ではハンス・ペーター/くるみ割り人形役で舞台に上がる予定みたいなので、MCは他の方だと思われます。また見たいな、キャンベルのMC。
細部まで凝りに凝ったコスチューム&舞台装置!
それぞれのキャラクターをピタリと表現したポップなテイストのコスチュームは、色使いもデザインも秀逸。思わず『かわいい!』とつぶやいちゃうものや『着てみたい!』と思うものががたくさんありました。(特に好きだったのはトランプとフラミンゴ♡)
ウサギを追って穴をどんどん落ちていく場面、アリスの身体が小さくなったり大きくなったりする場面、たくさんあるドアを開けてみる場面、、、舞台での表現が難しそうなシーンばかりの"不思議の国…"ですが、『こう来るか!』と驚くアイデア溢れるセットで巧みに表現されているのにも脱帽でした。いまだに、どうなっていたのかよくわからない"からくり"も。(チェシャ猫や巨大イモ虫の登場にもビックリ!)
"不思議の国"の世界を表現するために用いられる映像や道具、舞台装置、そして衣装。どれも現代の技術がふんだんに用いられ、古典とはまた違った鮮やかな世界を創り上げています。こういった新たな技術やテイストを取り入れる柔軟性が、バレエを廃れゆく芸術文化にしないためにも必要なんだろうな…とも思いました。
バレエ版『ハリーポッター』が創作されるのも夢じゃないかも?なんて考えると、わくわくしますね。
興味深い制作者・ダンサーへのインタビュー
シネマシーズンでバレエを観ることのメリットのひとつ、制作に携わった人たちへのインタビュー。
ひとつの舞台を創り上げられるために、想像もつかないほど多くの人間が、それぞれの役割の中で手間と努力を惜しむことなくつぎ込んでいることを知ると、完成して差し出された作品がよりいっそう貴重で血の通ったものに感じられます。
今回も興味が尽きないインタビューぞろいだったのですが、中でも2011年の初演時に公爵夫人を演じた俳優さん(ダンサーではない・太めのおじさん)へのインタビューで『僕はダンサーではないから、数か月バレエ団のレッスンを受けたんだけど…君たちダンサーは別の生き物だよ。』と言っていたのには、『そうそう!ダンサーって人間離れしてるよね!』と大きくうなずきました。
今作品でタップダンスとバレエが融合した踊りを見せているマクレイへのインタビューも、ダンサーならではの視点で語られていて、いつまでも話を聞いていたくなりましたよ。↓このインタビューはYoutubeのROH公式チャンネルで視聴可能!
踊りとダンサーについて
メインキャストのカスバートソン(アリス役)&ボネッリ(庭師/ハートのジャック)
実力派ながら来日機会やシネマ上映作品での露出が少なく、日本での知名度は今一つ(?)な感があるローレン・カスバートソン。今作では2011年初演時からの第一キャストとして、堂に入ったアリスぶりを見せてくれました。
生粋のイギリス人である彼女(『ブリジット・ジョーンズ』に出演してそうな感じ…)、品格ある佇まいと伸びやかで確かな踊り、最初から最後まで出ずっぱりなのに疲れなど微塵も見せぬ驚異のスタミナに、あっぱれ!
もう一人のメインキャスト、庭師/ハートのジャック役・ボネッリも、相変わらずのオトコマエぶりと安定感。最後に見せたデニム姿のカッコよさには、思わずホレボレ…頬が緩んでしまいました。
ラウラ・モレラのコメディエンヌぶりに拍手喝采!
アリスの母/ハート役を踊ったラウラ・モレラ。
バレリーナとして恵まれた体形とは言えない彼女ですが、身体をフルに使ってしなやかに踊るテクニックはもはや超人的な、素晴らしいダンサーです。
そんな彼女が今作で見せたコメディエンヌぶりは、圧巻の一言!中でも、『眠り』の"ローズアダジオ"をパロッた振付で踊るシーンでは、完全に舞台を支配、観客の心をかっさらって行きました。
バレエでお腹を抱えて笑うなんて、なかなか無い経験。とはいえ、一見崩しながらも所々美しいバレエの動きで魅せるあたり、完璧な身体の制御ができていて、サスガです。
やっぱり神ってる、マクレイのマッド・ハッター
ダンスの神さまと崇めるスティーブン・マクレイ、今作でもスゴイものを見せてくれました。
バレエ作品である『不思議の国のアリス』にタップを取り入れることは、2011年の初演時、振付家・クリストファー・ウィールドンとの最初のセッションで本決まりになったそうですが、確かにマッド・ハッターのタップは作品に彩りを添える欠かせない要素となっていました。
マクレイは、17歳でローザンヌに出場した際にもタップ作品を踊っちゃったほどの踊り手。今もガラコンサートなどでタップ作品を披露してはいますが、今作のタップとバレエが融合した踊りも瞠目ものの素晴らしさでした。
キャラの立った名優ぞろい!
ここまでに挙げた以外の出演者も、みなさん踊りだけでなく演技もすばらしくて、書ききれないほど。
おどろおどろしい公爵夫人を嬉々として演じるゲイリー・エイヴィスや、威厳ある王様役のイメージが強いクリストファー・サウンダースの情けないお顔のハートの王様(登場の仕方に爆笑!)、肉屋のクリステン・マクナリー(肉切り包丁振り回しまくり…^^;)、、、
濃い~キャラクターたち全員にしっかり息吹が吹き込まれていて、見ていて全く飽きることがありませんでした。
豪華な布陣に英国ロイヤルの層の厚さを感じる
このダンサーがこんなところにこの役で?!という贅沢な布陣にも、英国ロイヤルの層の厚さが感じられました。
配役表に名前がなく、凝った衣装やメイクでどなたか判別できないダンサーも多かったのですが、注目しているヴァレンティノ・ズケッティ、ベンジャミン・エラ、メーガン・グレース・ヒンキス、ベアトリス・スティックス=ブルネルや、金子扶生さん、佐々木万璃子さん、桂千里さんなど、日本ゆかりのダンサーの姿も確認でき、どこに目線を配るか困るほど。
まとめ
ラブリーでポップ、ちょっとコワくてオモシロい、イギリステイスト満載な作品、『不思議の国のアリス』。演劇性の高いバレエを得意とする英国ロイヤルの真骨頂のような舞台だと思いました。
『子どもも楽しめる作品』と決して侮れない、手の込んだ作りこみようは、一見の価値アリです。ぜひ!
ちなみに、2012年にDVDが発売されているので、こちらも要チェックです!(なんと、ポルーニンがハートのジャック役!)
~reverence~
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