バレエ映画レビュー|『ポリーナ、私を踊る(2016)』を観て。
2017年11月に観た映画『ポリーナ、私を踊る』について、プチ情報や感想をまとめてみました。
どんな映画?
将来の成功のためにと家族に期待されバレエの上達に励んでいた貧しい家庭の少女が、自分らしい踊りを求め、壁にぶつかりながらもダンサーとして・人として成長していく物語。
ということで、記事タイトルは"バレエ映画"としていますが、バレエを起点としてコンテンポラリーなどさまざまなジャンルのダンスもフィーチャーされているので、少々語弊があるかもしれません。
なお、原作はフランスのグラフィック・ノベルとのこと。(『グラフィック・ノベル』って何?と調べると、ざっくり言えば"マンガ"のことでした。諸説あれど、マンガ・コミック・グラフィックノベルの間の明確な線引きは難しいみたいです。)
原作↓も読んでみたいな。
ポリーナ (ShoPro Books)
映画情報・あらすじ・感想
基本情報
原題:『POLINA, DANSER SA VIE』
監督:ヴァレリー・ミュラー、アンジュラン・プレルジョカージュ
2016年 フランス
108分 フランス語、ロシア語(日本語字幕)
出演:アナスタシア・シェフツォア(ポリーナ)
ニールス・シュナイダー(ポリーナの恋人)
ジェレミー・ベランガール(ダンスチームのメンター)
アレクセイ・グシュコフ(バレエ学校の教師・ボジンスキー)
ジュリエット・ビノシュ(コンテンポラリー・ダンス・カンパニーのダンサー兼主宰)
ポリーナ役のアナスタシアは、実際にバレエの訓練を積んだダンサー。マリインスキーに所属していましたが、この作品を機にバレエ団を離れ、振付家・女優としてのキャリアを歩み始めているのだとか。
一方、フランス人の恋人役・ニールス・シュナイダーは、なんとダンスの経験がない俳優さんで、数か月の特訓を受けたのちに撮影に臨んだんですって。この映画まで知りませんでしたが、なかなか人気のある俳優さんみたいです。
フランスでダンスチームを率いるメンター役として登場するジェレミー・ベランガールは、元パリ・オペラ座のエトワール(2017年5月引退)。同じく元エトワールであり現芸術監督であるオーレリー・デュポンの旦那さまです(知らなかった!あのアデュー公演カーテンコールで微笑ましく登場していた男の子2人のパパは、この人だったのか!とびっくり)。 事前知識なく観たのですが、長年エトワールの座にあったダンサーだけあって、サスガの存在感と踊りの美しさで映画に重みと説得力を与えています。
最も有名なフランス女優のひとりジュリエット・ビノシュも圧巻!ダンスが本業でないとは思えぬハマりっぷりで、まんまダンスの指導者として通用しそうでした。
ポリーナが少女時代に通っていたバレエ学校の教師・ボジンスキー役を演じていたアレクセイ・グシュコフも、いかにも老練なバレエ教師といった風情がハマりまくっていました。ポーランド出身の俳優さんで情報はあまりありませんが、落ちぶれた指揮者の再生物語『オーケストラ!』という作品↓はすごく評価が高いようなので、近々ぜひ観よう!と思っています。
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あらすじ
ボリショイ・バレエ団への入団を嘱望され、ひたすらバレエの稽古に励む貧しい家庭の少女ポリーナ。
素質に恵まれていたわけではなかったが、厳格なバレエ教師ボジンスキーらから指導を受け、ボリショイ・バレエ団への入団が叶いつつあった。
そんな時に観たコンテンポラリー・ダンスの舞台に衝撃を受けたポリーナは、同じ学校に留学していたフランス人パートナーの帰国に合わせて共に渡仏し、コンテンポラリー・ダンス・カンパニーに入団することを決意する。
入団後、パートナーとのデュエットで舞台デビューが決まったポリーナだったが、稽古中に足を怪我してしまったことにより、出演のチャンスとパートナーを同時に失う。
家族の期待を裏切る形でフランスに渡っていたため、帰国することも家族に状況を打ち明けることもできず、失意と貧しさの中、退廃的な暮らしに陥ちていくポリーナ。
しかし新たなダンサー兼振付師との出会いにより、徐々にダンスへの情熱と愛を取り戻していく。彼女がつかんだ"自分らしい踊り"とは―――。
感想&筆者的みどころ
フランス映画の常で、物語の主人公・ポリーナ始め登場人物の感情の動きについて、説明的なセリフやト書きは一切なしと、観方次第では退屈になっちゃう映画かもしれません。登場人物も一様に寡黙で、さすがに言葉足らずすぎるのでは?とも思われるほどです。
淡々とした映像のつなぎ合わせだけで紡がれていく物語、わかりやすい起承転結があるわけでもなく、まだまだ想像力が乏しかった若い時分であれば『・・・で何が言いたいの?』となっちゃたかもですが、さすがに40半ばともなれば、あれこれ汲み取れるところがあり、むしろ泣きや笑いを狙った演出や編集によってでなく、観るものの感性に任せてくれるところに好感を持ちました。
将来の成功のために、肉体的・精神的鍛練のためにと、親は子にいろいろさせてみるわけですが、必ずしもそれが子ども自身のやりたいこと・好きなことと一致しているとは限りませんよね… 子ども自身に自我が芽生え『ちょっと違う』と感じた時に、方向転換すべきかどうか・親はそれを許せるかどうかというのは、お国や文化に関わらず普遍的なテーマです。(職業的成功を願ってさせたのが"クラシック・バレエ"だった、というところがロシアならではですが。)
筆者の両親は将来への準備のために何かさせようという意図を持たずゆる~く育ててくれ(バレエもやりたい!の一言で始め、止めたい!の一言で終わりだった…)、とっても自由気ままに子供時代を過ごさせてもらったので、小さいうちから親の期待を一身に背負ってひたすら修練を積むと言うのは想像するだけでツラいな…
とはいえ親の立場になってみれば、色んなものを犠牲にして支援した子供が、突然『別の道を行きます!』宣言をしちゃった日には、そりゃあやっぱり失望するよね…とも思うし、子どもであるポリーナの立場・親の立場両方わかるだけになんだかフクザツな気持ちになっちゃいました。
みどころとしていたポリーナが踊るバレエのシーンについては、正直言うとちょっと期待外れ、だったかも…。役柄のせいかポリーナ役のアナスタシアの持つ雰囲気のせいか、淡々と無表情でこなすバレエのシーンには『ぜんぜん楽しくなさそう…』ともどかしさを抱いてしまいました。(そうすることでポリーナの持つクラシック・バレエへの違和感を表現していたのかもしれませんが。)
とはいえ、心躍るシーンもいくつか。クラシック・バレエのレッスン風景(レッスン風景フェチなので)や、雪の中のひとりダンスシーン、ラストのコンテンポラリー作品のシーンなどには心動かされて微笑んだり目頭がジーンと熱くなったり。
しかし中でも秀逸だったのはジュリエット・ビノシュの踊り。心得はあるとはいえプロのダンサーではない彼女の踊りが一番印象に残るとは予想外!ダンスの上手い下手って一体何なんだろう?と改めて考えさせられるとともに、表現者としてのビノシュの素晴らしさを再認識しました。(ビノシュ出演作では映画『ショコラ』↓が見やすくておススメです^^)
★5つ!強くおススメします!という感じの映画ではないけれど、思った以上にバレエ以外についても幅広く考えさせられる映画でした。
~reverence~