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映画:『ミルピエ ~パリ・オペラ座に挑んだ男~ (2015)』を観て。"組織としてのバレエ団"について考えさせられました。

2017/02/01

パリ・オペラ座の元・芸術監督バンジャマン・ミルピエを追ったドキュメンタリー映画『ミルピエ ~パリ・オペラ座に挑んだ男~ 』をようやく観に行ってきました。

ミルピエ…誰だっけ?と映画を勧めてくれた姉に聞くと、

・ナタリー・ポートマンの旦那さん(『ブラック・スワン』制作時に知り合った)
・アメリカのバレエ団(NYCB)に所属してたダンサー&振付家
・現オペラ座芸術監督オーレリー・デュポンの前任者

だよ!とのこと。

はいはい、、、なんとなく…くらいの感じで、レディースデイを狙って映画館にGO!

見てよかった!創造の過程がよくわかります。

評価があまり高くないらしいこの映画ですが、筆者としては、

●"組織としてのバレエ団"という切り口でバレエ界を見るきっかけになった
●リアルな創作の過程がとても興味深かった
●エトワールでないダンサーたち(撮影段階で)の踊りや取り組み姿勢を垣間見て、ひとりひとりを身近に感じた
●フィーチャーされているコンテンポラリー作品が音楽・振付ともに好きだった

と得るものが多く、観に行ってよかった!と思いました。

『ミルピエ~パリ・オペラ座に挑んだ男~ 』の内容(あらすじ)

2014年秋~2016年2月のわずか1年半、オペラ座の芸術監督の座についたダンサーのバンジャマン・ミルピエ。

前任者(ブリジット・ルフェーヴル)が約20年の長きにわたって芸術監督を務めてきたことを考えれば、ミルピエの就任期間の短さは異例であることがわかります。

映画の中では彼の去就については全く話題に上らず(エンドクレジットに"この4か月後に辞任"と出るだけ)、オペラ座に新たな風を運ぶ芸術監督として、環境面・意識面の両面において組織の改革を進めようとする姿と、コンテンポラリーの新作を一から作り上げていく振付家としての姿の両面が描かれます。
 
 

筆者的・この映画の見どころ

 

"組織"として見る『バレエ団』

比較になりませんが、筆者自身、会社員時代に80名規模のチームのマネジメント職についていた経験があるので、見ていて胃がキリキリしそうになりました…

限られた資金・時間のやりくりとそのための創意工夫、そこで働く人ひとりひとりの働きやすさややりがいを高める施策を考え遂行すること、顧客(バレエの場合は観客)のニーズをくみ取ったクオリティの高い商品(=作品)やサービスの提供、、、

組織を運営することで直面する問題は、バレエ団も会社も同じなんだな…と。

ましてや、オペラ座は350年以上の歴史と数多くの労働者を抱える、歴史と伝統ある巨大企業のような組織。
それが抱えている問題は、多くの巨大企業となんら変わることがないなあ、とも思いました。

長い歴史を持つ組織が陥りがちなのが『これまでやってきた通りにやっていれば、少なくとも大きな失敗は起こらない』という考え方ですが、度が過ぎると『思考停止』に陥り、気づいた時にはお客さまからの支持を失っていた…ということになりかねません。

オペラ座に所属した経験のないミルピエだからこそ持てたアウトサイダーとしての視点。そこから見たオペラ座の姿に、もどかしさを感じていたことがスクリーンから伝わってきた気がします。

 

創作の過程が興味深い!

観客が目にするバレエの舞台には、さまざまな分野の多くの人々が関わっており、その一人一人の地道で情熱ある仕事の積み重ねが嚙み合ってようやく完成するものであることが、たいへんよく理解できました。

作曲家・振付師・指揮者・道具係・衣装係・照明係・ダンサーやそれぞれのサポートを担当する人たち、それぞれの分野で問題を抱えながらも『良い作品を創りたい』という共通した想いの下ベストを尽くす姿は、どこを切り取っても興味深かったです。

芸術監督として組織の運営と改革に取り組みつつ、バレエ作品の振り付けを並行してこなす、ミルピエの切り替えの早さ(使ってる脳の部分が全然違うと思う)にも驚き(゚д゚)!

 

エトワール以外のダンサーたちの素顔を垣間見る

オペラ座といえば、エトワールを頂点に、プルミエール・ダンスール(プルミエ)⇒スジェ⇒コリフェ⇒カドリーユという階級制が敷かれており、階級によって処遇が異なることは知られているところ。(ちょっと相撲部屋っぽい…)

日本にいてもバレエ関係のサイトや雑誌などからエトワールやプルミエ辺りの情報は耳にするものの、スジェ以下の階級のダンサーについては、お顔・名前・踊りが一致するほどの情報はなかなか入ってきません。

そんな彼らが、ミルピエの手になる新作バレエにキャスティングされたことによって、スポットライトを浴びて踊り、どんな想いで取り組んでいるのか自分の言葉で話すのを聞くことができるのも、この映画を興味深く感じた点のひとつです。

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ボリショイ・バレエが舞台のドキュメンタリー映画『ボリショイ・バビロン』を見たとき、ダンサーの顔に輝きが無く、"職業バレエ"に徹する姿(全員がそうではないだろうけれど)に、好きなこと・得意なことが仕事であろうダンサーとて、普通の会社員みたいにああなっちゃうんだね… と、わかるけど物悲しい気持ちになったことを覚えています。

オペラ座にはあそこまで"バレエは仕事"と割り切った空気はなさそうでしたが、特にバレエ学校からの生粋のオペラ座育ちのダンサーにとっては、『言われたことをやり遂げる』能力はあっても、さあ自由に表現しなさい・個性を出しなさいと言われても、とまどいが先に立つのかなと思いました。

とはいえ、さすが世界最高峰のバレエ団!とうならせる踊りの美しさ、どんな要求にも応えられるテクニックの高さは、オペラ座の層の厚さを感じさせます。

ちなみに、エトワールガラ2016で来日したユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェ、レオノール・ボラックがたびたび画面に登場。(ルーヴェ&ボラックは、映画公開後の2016年末にエトワールに昇進。)

NHKのTV番組『マニュエル・ルグリのスーパー・バレエ・レッスン(2006年~7年)』で"ロミオ"を習う生徒役として出演していたアクセル・イーボも登場、TVではちょっと頼りなくさえあるほど初々しかった彼の、たくましく成長した姿が見られたのも密かな収穫です。

 

ミルピエに欠けていたもの

長年の伝統と実績を誇る組織の中で大きな変化を起こそうとする場合、かなりの忍耐と説得力をもって時間をかけて行われなければならないものです。

"たいていの人間は変化を嫌うものだ"ということを念頭に置き、変化と改革の必要性を説得力ある言葉で地道に説いていくことでだんだん変化の土台が作られていくのでしょうが…

ミルピエの場合、目指した方向性が間違っていたわけではなく、オペラ座が大なり小なり問題を抱えていることも事実だったのでしょうが、いかんせん伝え方がマズかったのと急ぎ過ぎたのがアダとなったのでは。。。

 
 

歌舞伎より長いフランス・バレエの歴史を考えると。

世界史(と年号)にめちゃくちゃ弱い筆者、wikiでちょこっと調べただけですが、、、

フランス・バレエの歴史は日本の歌舞伎より長い

んですね!!!

そりゃあ、フランス人とはいえオペラ座在籍歴が一切なく、アメリカでダンサーとしてのキャリアを築いてきたミルピエがいくら『改革!改革!』と叫んでも、聞き入れてもらえないでしょう…。

次回、オペラ座の舞台を見る時には、ちょっとフクザツな気持ちになっちゃいそうですが、バレエが舞台のドキュメンタリーとしてはとても興味深い良作でした。

 
 
~reverence~

 

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