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【バレエ関連の本・レビュー】| 『周防正行のバレエ入門』 

2017/01/16

バレエ関連本『周防正行のバレエ入門』(太田出版)のレビューです。

著者はバレリーナ草刈民代さんの旦那さま、映画監督の周防正行さん

超大型書店の『ダンス・演劇』コーナーで、ふと目に入った本『周防正行のバレエ入門』。

周防さんといえば、映画『Shall We ダンス?(1996年)』の監督で、その映画のヒロイン役を演じた牧阿佐美バレエ団の草刈民代さんとご結婚された・・・という予備知識はあったので、興味を覚えて手に取ってみました。

帯には『バレリーナと結婚して15年、日本一バレエを見ている映画監督による、愛に満ちたバレエ論。』のクレジット。

それまでの人生でほとんどバレエにご縁が無かった男性が、バレリーナと生活を共にするようになって、どのように感じたかを聴く機会なんて、そうそうあるものではない…と思ったのと、なぜか5番ポジションがとってもきれいにとれている周防さんのお茶目な写真↓に興味をひかれて購入してみました。
 

 

内容と感想

内容は1~3章の3部構成になっています。それぞれの章について、大まかな内容と筆者の感想をつづりたいと思います。

【1章 ―『周防監督、バレエに入門する』】 

内容

バレエについての幼少期の記憶に始まり、36歳になって取材先のロシアで初めてバレエ公演を鑑賞したときのこと、『Shall we...』のヒロイン選考で草刈さんの踊りを初めて見た時のこと、その後草刈さんを通してバレエへの見識を深めていかれたことが、一人称で書かれています。

 

感想

『バレエとの遭遇』の中で書かれているエピソードは、『当時すごい人気だった森下洋子さん』『TVドラマ「赤い靴」(バレエがテーマのドラマ)』『志村けんのコント(…白いチュチュのアレかな?)』『クラスの女の子が習ってた』・・・と、周防さん世代の男性はほとんど似たようなの記憶をお持ちだと思います。

(周防さんより十数年後に生まれた筆者ですが、そのころでさえ『森下洋子さん』は憧れの的でした。日本のバレエ人口(観る・踊る双方で)をぐぐっと押し上げた森下さんの功績は計り知れないと思います。)

 

面白かったのは、Shall We...のヒロイン候補として名前が挙がった草刈さんを見るべく、『くるみ割り人形』の舞台に行った時のエピソード。"くるみ"と言えば「プリマが出てくるのが一番遅いバレエ」。事前に見た草刈さんの写真と『金平糖の精』という役で出演、という情報だけを頼りに草刈さんの登場を今か今かと待つ周防さんの、『金平糖って、誰だよ!』の言葉に、バレエにご縁のない人の素直な気持ちが集約されている気がしました(笑)。
何の予備知識もなく舞台を見ると、バレエファンでも『あれは…何を表現?』ってなりますもんね。

草刈さんと知り合われて以後、バレエをより深く知るにつれてのお話も、素直な驚きあり、さすが映画監督!と思わせる視点の洞察ありで、興味深く読み進みました。

 

 

【2章 -『周防監督、草刈民代に入門する』】

内容

周防さんと、妻でありバレエ・ダンサー(元)の草刈民代さんとの対談形式で進められる第2章。バレエ学校時代からプロのバレエ・ダンサーになるまでの道のり、日本でバレエ・ダンサーを職業とすることについて、バレリーナの日常・暮らしについてなど、バレエダンサーでない男性の周防さんが質問することにより、バレエ雑誌のインタビューとはまた違った視点で、バレエ・ダンサーの"リアル"を感じとることができます。

 

感想

映画監督として、バレエダンサーとして、それぞれ確立されたキャリアをお持ちのお二人が、お互いを認め合い尊重しあっていらっしゃることが会話の端々から伝わってきて、いいご夫婦だなあ…と思いつつ読みました。

大きくうなずいたのは、日本のバレエ公演の興業としての在り方に関するくだり。配役ありきのギャラ制であるがゆえ収入の下支えが無い、そんなダンサー自身が公演のチケットを売らなければ、興業も生活も成り立たず、国からの助成金でなんとか賄っているという現状。利益の部分は、バレエ学校や教室を併設して生み出すしかない…

周防さんは『もう少し興業を成功させるべく営業努力をしたほうがいいと思う。』と書かれていますが、組織の一員として会社の営業努力を少なからず肌で感じてきた筆者も、その意見に大きくうなずきました。

"一生懸命頑張ること"も"良いものを作る"ことももちろん大事ですが、それが本当にお客さんが進んでお金を払いたいものとなっているのか(=顧客ニーズに合っているのか)?、自問し、改善に取り組み、淘汰されなければ、いつか全体が立ちいかなくなってしまうのでは、と懸念されます。。。

 

 

【3章 -『ダンシング・チャップリン』入門】

内容

草刈さんの、バレリーナとして本当の最後の踊りを披露した、周防監督作のバレエ映画『ダンシング・チャップリン』
世界的振付家のローラン・プティがチャールズ・チャップリンを題材として創作したバレエ作品を題材にして、周防監督が撮影・編集した映画です。この映画の撮影秘話や製作過程についてが書かれています。

感想

映画監督としての周防さんが、どのように舞台芸術であるバレエ作品を映画という形に落とし込んでいったのか、なかなか興味深い内容でした。
3次元の舞台と2次元のスクリーンというフォーマットの違いはじめ、一定の場所から距離の変化なく観る舞台でのバレエと、自在にアングルと距離感がとれる映画でのバレエとの見せ方の面での違いなど、映画の撮影技法や手法についての話が面白かったです。

ありとあらゆる公演でお名前を見かける巨匠ローラン・プティの、妥協を許さないちょっと気まぐれなフランス人芸術家のイメージそのものの生前の姿も垣間見ることができた気もしました。

 

総評

途中でちょこちょこ入る『バックステージ日記』は小さい文字が詰まっていてやや読みにくく、読み進めるのに根気が必要でしたが、全体を通じて新たな発見がたくさんあり、なるほど~!と何度もつぶやきながら読了。

草刈さんは、8歳でバレエを始めてから引退まで、文字通りずーーーっと踊って生きてこられた方なのですが、お話がとても論理的で整然とわかりやすく、その聡明さが印象に残りました。(一線のダンサーには、踊りの上手さだけでなく理解力やコミュニケーション能力も必要なんでしょうね。)

10年以上前になると思いますが、一度だけ草刈さんの踊りを拝見したことがあります。『デューク・エリントン・バレエ』という演目だったのですが、キレよくしなやかでエスプリの効いた踊りが今も思い出されます。(オペラ座のアニエス・ルテステュとちょっと雰囲気が似ておいでな気が。)

それまでの生活を変えないといけない人となら結婚してなかった、とおっしゃる草刈さん、そんな草刈さんをまるごとリスペクトされている周防さんの素晴らしいパートナーシップにも感銘を受けました!

~reverence~

 

 


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