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バレエ公演レビュー|『ルグリ・ガラ』Aプロ2017年8月19日@大阪フェスティバルホール
2017年8月下旬、大阪・名古屋・東京の3都市で開催の、マニュエル・ルグリ監修のガラ公演『ルグリ・ガラ』。
8月19日(土)大阪・フェスティバルホールで行われたAプロを観てきたので、その感想を。
※お名前の記載方法については、出演者欄には主催者発表の表記を、感想本文内では筆者がしっくりくる表記を姓名区別せず使わせていただいています。
Contents
- 1 プログラム・演出について
- 2 演目ごとの感想
- 2.1 1.『海賊』第3幕よりオダリスク
- 2.2 2.『ライモンダ』第1幕よりアダージオ
- 2.3 3.『I have been kissed by you...』『…Inside the Labyrinth of Solitude』
- 2.4 4.『ラ・フィユ・マルガルテ』
- 2.5 5.『マニフィカト』より
- 2.6 6.『じゃじゃ馬ならし』
- 2.7 7.『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』
- 2.8 8.『フェアウェル・ワルツ』
- 2.9 9.『ローレンシア』よりパ・ド・シス
- 2.10 10.『Medea』
- 2.11 11.『アルルの女』より
- 2.12 12.『Movement of the soul』
- 2.13 13.『Murmuration』より
- 2.14 14.『海賊』第2幕よりアダージオ
- 2.15 15.『グラン・パ・クラシック』
- 2.16 16.『Moment』
- 3 全体的な雑感
プログラム・演出について
プログラムについて
今ツアー大阪での公演は、1日・Aプロのみ。(Bプロもやってくれれば、絶対行ったのにな…)
作品の数としてはA/Bともに16ずつと同じでしたが、、、
個人的に、Aプロでしか見られない=観られてラッキー!だった主な演目は、『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』(ヌニェス&ムンタギロフ)、『グランパ・クラシック』(スミルノワ&チュージン)、『アルルの女』(ゲラン&ルグリ)。
Bプロでしか見られない=ザンネンだった主な演目は、『ドン・キホーテ』(ヌニェス&ムンタギロフ)『ジュエルズよりダイヤモンド』(スミルノワ&チュージン)、『ランデヴー』(ゲラン&ルグリ)、『タランテラ』(フォーゴ&ウィリック)などなど。
特にマリアネラ・ヌニェスを愛する筆者にとっては、『ドンキ』の見逃し感はハンパなく、あきらめ悪~く、行きたかった~行きたかった~とつぶやき続けています。
演出について
緞帳が上がると、そこには大きなスクリーン。
踊りに先立って、ルグリはじめ出演者たちのリハーサル風景や舞台でのひとコマが2~3分ほどにまとめられた映像がそのスクリーンに映し出されます。
その後、ドラム(太鼓っぽい)音のジングル(切替時の短い音楽)とともに、最初の演目タイトルと音楽・振付・ダンサー名が映写され、スクリーンが上がって踊りが始まりました。
この演目タイトルなどのクレジット、1作品ごとに踊りに先立って映写されるので、手元が暗い中キャスティングシートを逐一見なくて済み、わかりやすくてよいなと思いました。(ただし、ローマ字表記のみなので、例えば『Le Corsaire』=『海賊』とわかっていないと「ハテ?」となる可能性が。)
16回もジングルを聞いたので、終演後しばらくの間は、太鼓っぽい音が『ダンダダダンダンッ…』とアタマから離れませんでしたが^^;
演目ごとの感想
1.『海賊』第3幕よりオダリスク
出演:ニキーシャ・フォゴ、ナターシャ・マイヤー、芝本梨花子
ルグリが芸術監督に就任して以来、急速な躍進を遂げているというウィーン国立バレエ。そのバレエ団のために自ら改訂を加え全幕を振り付けた『海賊』は、やはり外せない演目です。
ガラの幕開けを飾るにふさわしいルグリ振付の『海賊』から、第3幕のオダリスクの踊り。"オダリスク"とは、寵姫や女奴隷という意味で、バレエで"オダリスクの踊り"というと、富豪や権力者の目を楽しませるための踊りを指すことが多いです。
3人の女性ダンサーはいずれもウィーン国立バレエの若手。プリンシパルクラスの後出のダンサーたちと比べると、どうしても動きにムダやブレが目立ってしまいますが、異なる個性が感じられる踊りでした。
ボッレ主催のガラ公演に招聘されるなどしているというニキーシャ・フォゴは、伸びやかでバネのある溌剌とした踊り。ナターシャ・マイヤーには可憐さと華が感じられ、急きょ今ツアーへの参加が決まった芝本梨花子さんは日本人らしい堅実で正確な踊りと、3人3様興味深く鑑賞させてもらいました。
2.『ライモンダ』第1幕よりアダージオ
出演:ニーナ・ポラコワ、ヤコブ・フェイフェルリック
伯爵家の血筋にある美しい娘ライモンダと、十字軍遠征に出兵中の騎士ジャンの、夢の中でのパ・ド・ドゥ(だと思われる)を踊るのは、ウィーン国立バレエのプリンシパル(※):ニーナ・ポラコワと同団ソリスト:ヤコブ・フェイフェルリック。
この作品について詳しくなく、比較の対象もないのですが、ヌレエフ振付のせいか一筋縄ではいかないひねった振付が印象的でした。
『マノン』でルグリと共演するなど実力派のニーナ・ポラコワは優雅でエレガントな動きが美しく、フェイフェルリックも若さはあれど優雅で品のある物腰で落ち着いたサポートぶりが光っていました。
※プログラムにも今ツアー公式サイトにも『プリンシパル』と表記されていますが、ウィーン国立バレエ(Wiener Staatsoper)の公式サイトによると、同団には『プリンシパル』というランクは存在しません。最高位である『ファースト・ソリスト』を『プリンシパル』に相当するランクとして置き換えているものと思われます。
3.『I have been kissed by you...』『…Inside the Labyrinth of Solitude』
出演:エレナ・マルティン、パトリック・ド・バナ
:ジェロー・ウィリック
パトリック・ド・バナ振付のコンテンポラリー作品を2作続けて。
バレエのみならず、スペイン舞踊やフラメンコの世界でも活躍しているというマルティンと、バナによる『I've...』。幕が上がるとスポットライトを受けて凛と立つマルティン。フラメンコ風衣装の長いフリルスカートの裾あたりで動きが?とよく見ると、トレーンからバナの手が… 全身が徐々に這い出てくるくだりは『貞子』を思い出しちゃった。。^^; 2人の絡み合うエネルギーは見ものでしたが、難解すぎてそこから先には入っていけませんでした、ワタシ…。
『I've...』のエンディングとかぶるようにして登場したウィリックのソロ『…Inside...』。こちらの作品は、そもそもダイナミックな踊りが信条のイワン・ワシリーエフ(ボリショイ)のために振りつけられたとあって、跳躍がふんだんに盛り込まれた苦悩の踊り。ウィリックの踊り自体は、とっても良くってケチのつけどころがなかったのですが、、、いかんせん長すぎた!!! 音楽がクライマックスっぽい盛り上がりを見せてはまだ続き…が×5回くらい繰り返されて、だんだんこんな顔(・・)になってしまった… 苦悩の表現は短めでお願いしたいっス!
2作品通じて音楽が全くない静寂タイムが多用されていたりもして、筆者的にはイマイチ入り込めない要素の多い作品でした。
4.『ラ・フィユ・マルガルテ』
出演:ナターシャ・マイヤー、デニス・チェリェヴィチコ
『リーズの結婚』の名でも知られる今作。1幕での恋人同士のパ・ド・ドゥを踊るのは、最初のライモンダのオダリスクを踊ったマイヤーと、ウィーン国立バレエのプリンシパル(※前出)デニス・チェリェヴィチコ。
公式サイトでのショートフィルムを見て、デニスくんの踊りを楽しみにしていたのですが、調子が悪かったのか、練習が十分でなかったのか、回転しながらのジャンプでは大きくぐらつき、最後のリフトでは大きくふらついてポーズが決められないまま、おやおや?という感じで終わってしまいました。
マイヤーも、ソロを踊るには存在感が希薄で、少女のような体形もあいまって、コンクールでも見ているような気に。ひょーい!と高く上がる脚のラインは美しいし、ポテンシャルはあると思うのですが、プラスアルファの部分はこれから、なのかな?
5.『マニフィカト』より
出演:ニーナ・トノリ、ヤコブ・フェイフェルリック
ノイマイヤーがオペラ座時代のヌレエフの求めに応じて創作した『マニフィカト』。初演はギエムとルグリでした。
白一色のレオタードに身を包んだダンサー2人の身体が描く形が次々と移ろって行くさまは、延々と見ていたくなる美しさ。特定の角度にキチッと入らなければ良さが損なわれてしまうような、繊細な身体のコントロールが求められそうな作品でしたが、粗が無くクリアな動きで魅せてくれました!これは良かった。
…これをギエムとルグリが踊ったんだ…と想像するだけで、トリハダです。。。
6.『じゃじゃ馬ならし』
出演:オルガ・スミルノワ、セミョーン・チュージン
楽しみにしていたスミルノワ&チュージンのボリショイ・プリンシパル・コンビの踊り。
親しみのない演目なので、どうかな?と思っていたのですが、踊りはサスガ!でした!
"じゃじゃ馬"カタリーナが徐々にペトルーチオに従順になっていく段階のパ・ド・ドゥだと思われますが、スミルノワの佇まいが"じゃじゃ馬"と呼ぶには気品あり過ぎかも?
役作りの面では、全幕見ないと何とも言えませんが、初めて見たスミルノワ&チュージンの気品と華やかさある端正な踊りは、ロシア勢に疎かった筆者を開眼させてくれたのでした。
7.『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』
出演:マリアネラ・ヌニェス、ワディム・ムンタギロフ
一番楽しみにしていた、マリアネラとムンタギロフのチャイパ!大好きなダンサーが大好きな演目を踊るのを見られる…バレエ鑑賞のヨロコビに打ち震えた数分間でした。
テクニック面でもスタミナ面でもものすご~く大変だという『チャイパ』ですが、マリアネラは身体を隅々まで意のままに操り、リラックス&キメの双方を自由自在に使い分けて、余裕しゃくしゃくの踊りっぷり! お顔を見なくてもマリアネラとわかるワンアンドオンリーな踊りに、さらなる進化を見た気がしました。『ああ楽しい!ルグリと同じ舞台に立てて嬉しい!』という心の声が聞こえてきそうな、満たされた表情も印象的。(マリアネラ、ルグリの大ファンで崇拝しているそう。)
ルグリが『古典バレエを、このように踊ってほしいという理想通りに踊ってくれる』(プログラムより抜粋)とチュージンと共に名を挙げているというムンタギロフも(最高の賛辞ですね!)、相変わらずノーブルで清潔感ある踊り。同じくルグリの大ファンで映像を何度も見返していたという彼からも喜びが伝わってくる気がしました。
8.『フェアウェル・ワルツ』
出演:イザベル・ゲラン、マニュエル・ルグリ
御年54歳の元オペラ座エトワール、イザベル・ゲランとルグリによる『フェアウェル(別れ)・ワルツ』。パトリック・ド・バナによってこの2人のために振付られ、2014年に初演された作品です。
『立ってるだけでドラマ』な、このお二方。。。その存在感とドラマ性ある動きで、男女間の様々な感情を表現して見せてくれました。この踊りを若手が踊っても、シブいブルースを子供が歌ってる、みたいになっちゃいそう。
人生経験や年齢さえも見せ方のひとつとして捉えているかのような、舞台人の神髄を見た気がしました!
【休憩(20分)】
9.『ローレンシア』よりパ・ド・シス
出演:ニキーシャ・フォゴ、デニス・チェリェヴィチコ、ナターシャ・マイヤー、芝本梨花子、ジェームズ・ステファン、ジェロー・ウィリック
封建時代のスペインを舞台として創作されたバレエ『ローレンシア』から、3組の男女・計6人によるパ・ド・シス。ウィーン国立バレエの若手がキャスティングされています。
最初のライモンダ・オダリスクの踊りで伸びのある踊りが目を引いたニキーシャ・フォゴ、スペイン風のアクセントが効いた振付が彼女のダンススタイルとよくマッチしていて、見応えあり!特に背中を大きくそらせてのジャンプは躍動感たっぷりで残像が残りました。
ラ・フィユ…でイマイチ調子が出ていなかったデニスくんも、ここではいい踊りしてました!踊るほうも観るほうも"見せどころ"にポイントが置きやすいスペイン系の踊りですが、キレとメリハリある踊りぶりで他の男性2人と一線を画す存在感を放っていました。
10.『Medea』
出演:エレナ・マルティン、パトリック・ド・バナ
踊り自体には凄みがあって、いいんだけど…難解すぎて降参。どうもバナの作品は、筆者には難しすぎるみたいです。
歓声に応えるおふたりは、心からのレベランスをしてくれているのがわかって、とってもいい人なんだなあとは思ったのですが… すいません、もっと美意識を磨いて出直させて。
11.『アルルの女』より
出演:イザベル・ゲラン、マニュエル・ルグリ
アルルの闘牛場で見かけた女に心奪われたまま、他の女との結婚を決めるも、徐々に崩壊していく男の物語『アルルの女』。
バレエで"心に苦悩を抱える男"を演じてルグリの右に出るものはいないのでは? そして悲哀を秘めた女がここまではまるのもゲランくらいでは?
ガラで"チラ見"するだけなんて!全篇通しで見たかった!と思う、絶妙な演目チョイスでした。
12.『Movement of the soul』
出演:ニキーシャ・フォゴ
本人創作によるコンテンポラリー。ウィーン国立バレエで年一回催される『若い振付家たちの夕べ』で発表したばかりの作品だそうです。
発表時には仲間のダンサーに踊ってもらったそうですが、今回は自ら踊ることに。伸びやかでヘルシーな爽快感溢れる踊りから、彼女の人柄が読み取れるような気がしました。
13.『Murmuration』より
出演:ニーナ・ポラコワ、ヤコブ・フェイフェルリック、ジェームズ・ステファン
2013年に創作され、2016年にはウィーン国立バレエでも上演されたバレエ『Murmuration』。(「Murmuration」は"ざわめき"という意味。)プログラムの解説によると、"数百羽のムクドリが大群をなして渡っていく様から着想を得て"創作されたバレエだそうです。
このガラでは3人で踊る場面を抜粋して上演。ほとんどがポラコワとフェイフェルリックのデュエットパートでしたが、線が美しい2人の身体が万華鏡のように刻一刻と違う形になるさまに魅せられました。
女性もバレエシューズ(ポワントでなく)で踊っていましたが、あんなに綺麗な脚のラインが出るんだ~と感嘆してしまうほどの美しさでした。
14.『海賊』第2幕よりアダージオ
出演:マリアネラ・ヌニェス、ワディム・ムンタギロフ
ルグリ版『海賊』より、海賊の頭領コンラッドとギリシャの娘メドゥーラの愛のパ・ド・ドゥ。
アダージオ部分のみでソロは無く、マリアネラに見とれているうちに、あっという間に終わってしまった… 『超絶技巧がいとも簡単に見える…』と思った箇所など、いくつか焼き付いている場面はあるのですが、記憶を反芻しようにもルグリ版のこの踊りの映像が無く、具体的に思い返せないのがザンネン。
とはいえ、海賊の頭領にしてはちょっと野性味に欠けるかも?だけど決めるところはちゃんと決めるムンタギロフ、ジュリエットタイプ(胸下からスカートのアレです)の衣装をまとったマリアネラの恥じらいを含んだ女性らしさ、ぴったりと呼吸の合ったリフトなど、みどころたっぷりのアダージオでした。
…5月のウィーン国立バレエ来日ツアーに、ゲスト出演しないかな~!!!?なんてちょっと期待。
15.『グラン・パ・クラシック』
出演:オルガ・スミルノワ、セミョーン・チュージン
"ガラ公演で見たい演目ベスト5"に入る『グラン・パ・クラシック』。(『チャイパ』もですが。) 大好きなこの演目を踊るのは、前半でその実力を垣間見て期待度がググッと上がったスミルノワ&チュージン。
伝統的なパ・ド・ドゥ形式(アダージオ→男性ソロ→女性ソロ→コーダ)に則って、"これぞクラシックバレエ!"な踊りが楽しめるこの作品ですが、踊るのがボリショイが誇る若手スターとあって、現代におけるクラシックバレエの最高峰の一角を見た気がしました!
スミルノワの気品あふれる端正な踊り、チュージンのノーブルさとダイナミックさを兼ね備えた踊り、危なげなど皆無で、しばし筆者をクラシックバレエの世界に連れ去ってくれました!ゴージャスで素晴らしかった!
16.『Moment』
出演:マニュエル・ルグリ(ピアノ:滝澤志野)
今ツアーが世界初演となるルグリのために創作された作品『Moment』。特定のストーリーや設定は無く、ルグリその人の一瞬一瞬を表現した作品だそう。創作過程に音楽の選曲から携わり、舞台上でピアノを演奏するのはルグリが厚い信頼を寄せる滝澤志野さんです。
ピアノに突っ伏したところから動き始めるルグリは、もはや存在そのものがアート… マイケル・ジャクソンのドキュメンタリー映画"This is it"を見た時にも思ったのですが、もう、"手を上げる"という単純な動きだけでもサマになり、ニュアンスが生まれるんですね、ああいう突出したアーティストって。。。
自身は『ダンサーとしての段階は過ぎた』と語っているそう(プログラムより)ですが、彼自身の美意識が許す限り、こうして踊る姿を見せてほしいと思います。
全体的な雑感
『大好きなルグリが来日!』『愛するマリアネラも?OMG!』『マリアネラ&ムンタギロフがチャイパを!』という理由で発売開始当日にチケットを入手した今回の舞台。
マリアネラ&ムンタギロフのチャイパだけでも「ごっつあんです…」と思えましたが、これまで疎かったボリショイにスミルノワ&チュージンという要フォローの注目ダンサーが増えたし、無縁だったウィーン国立バレエに対する興味も掻き立てられたしで、収穫の多い舞台でした。
また、この夏は『グラン・パ・クラシック』を3回、『チャイパ』を2回、鑑賞する機会に恵まれましたが、見比べることによってさらにバレエ鑑賞のおもしろさを実感できました。
告知チラシによると2018年5月に、ルグリ版『海賊』の来日公演が決まっているそう。行きたいな…
~reverence~