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バレエ公演レビュー|バレエ・スプリーム Aプロ2017年7月27日
2023/05/24
2017年7月下旬~8月上旬、東京・兵庫(西宮)・福岡で開催の、英国ロイヤルバレエ&パリオペラ座の合同ガラ公演『バレエ・スプリーム』。
7月27日(木)文京シビックホールで行われたAプロを観てきたので、その感想を。
※お名前の記載方法については、出演者欄には主催者発表の表記を、感想本文内では筆者がしっくりくる表記を姓名区別せず使わせていただいています。
Contents
第1部・英国ロイヤルチーム
前日26日から始まった公演。その"DAY2"となるAプロは、英国ロイヤルからスタート。いきなりお目当てナンバー1のヤーナ&マクレイでバレエ鑑賞気分がぐんとUPしました♪
『ラプソディ』
出演:ヤーナ・サレンコ、スティーブン・マックレー
単語としての"ラプソディ"は"狂詩曲"=自由奔放な形式で民族的または叙事的な内容を表現した楽曲、を意味するのだそう。
このバレエ『ラプソディ』は、英国ロイヤルといえばの振付家・アシュトンが、ラフマニノフの有名なラプソディ「パガニーニのテーマ」に寄せて創作した作品です。
ROH(ロイヤル・オペラ・ハウス)の公式映像を見ると、ロイヤルで踊り継がれるべきアシュトン作品として大切にされていることがわかります。
特にソロ部分では、高難度かつ早い動きが続くところあり、ユニークなゼスチャーや動きあり、大人バレエクラスでも登場しそうなシンプルなパが繰り返されるところもあったりして、とても興味を掻き立てられる組み立てでした。
緻密でありながらもダイナミックで躍動的なふたりの踊りは、幕開けを飾るにふさわしい素晴らしさ!2人そろってのファンタジックなパ・ド・ドゥのパートでは、ずーっと目を細めてウットリ…と鑑賞。
ちなみに、こちらのDVD↓にマクレイ&オシポヴァによる『ラプソディ』が収録されていますよ!
『アスフォデルの花畑』
出演:フランチェスカ・ヘイワード、マルセリーノ・サンベ
若手の現役振付家、元英国ロイヤル団員のリアム・スカーレットが振り付けた新作。事前情報がない作品の場合、本当にまっさらな気持ちで鑑賞できるのは良いところですが、『これは何を表現?なぜ暗いトーンなの?』と???マークが渦巻いてしまい踊りに集中できなくなるという難点が^^;
茶系の村娘&青年風の衣装を身につけたふたりのダンサー。フランキーもサンベも大好きなダンサーだし、踊りとしては美しかったのですが、深く楽しむにはもうちょっと作品背景が知りたかった…というのが本音です。
『ジゼル』第2幕よりパ・ド・ドゥ
出演:高田茜、ベンジャミン・エラ
白鳥より観てるかも?くらい鑑賞機会が多い『ジゼル』。2幕のパ・ド・ドゥは、ウィリとなったジゼルとアルブレヒトによる切ない踊りです。
死してなおアルブレヒトを愛し守ろうとする慈愛と悲哀に満ちた表情や、浮遊感と透明感ある美しい踊りが求められる場面。アルブレヒト役の男性ダンサーにとっても、ウィリの女王ミルタによって死ぬまで踊らさせられるという難しい場面です。
華奢ではかなげな雰囲気がジゼルのイメージにぴったりな高田さん、2日後のBプロでも思ったのですが、やはりジャンプ系のパが美しく、本当のウィリのようにスッ・・・と瞬間移動していそうな跳躍がすばらしかった!
ベンジャミン・エラの踊りは、初めてまじまじと見たのですが、ソロ経験の浅さゆえか(他の出演者と比較して)決めきれないところがありつつも、のびやかで優しさあふれる踊りに好感。
『アイ・ガット・リズム』
出演:スティーブン・マックレー
Aプロで最も楽しみにしていた演目のひとつ、マクレイのタップ・ダンス! かつて17歳でローザンヌに出場した際のコンテンポラリーでもタップを踊っちゃったマクレイ、ダンスなら(スポーツも?)なんでもござれなんですね。。
以前、ロイヤル・オペラ・ハウスの公式映像にアップされたタップ作品『チャルダッシュ』を観て、電流が走ったような衝撃を受けて以来、ずっと観たかったマクレイのタップ。(本当にすんごいので、ぜひリンクをクリックして映像をご覧ください。)
今回使われる曲は、有名なジャズのスタンダードナンバー『アイ・ガット・リズム』。『チャルダッシュ』じゃないの?とちょっと残念に思っていましたが、必ず期待以上のものを見せてくれるところはさすがマクレイ!!!
タップって、決して嫌いではないのですが、ユル~く脱力した"上半身お留守"感がもどかしくって、踊りとしてはちょっとザンネン…。しかし、マクレイの手に掛かればそんなザンネン感なんてすべて払拭! 全身を駆使して、ものすごいタップを見せつけてくれました。タップの概念を超えるスタイリッシュな動きに、お口あんぐり。唖然とするほど素晴らしい進化形タップでした!脱帽。
『ロミオとジュリエット』第1幕よりパ・ド・ドゥ
出演:フランチェスカ・ヘイワード、フェデリコ・ボネッリ
ロミ・ジュリから有名なバルコニーシーンの踊りを披露してくれたのは、フランチェスカとボネッリという見目麗しいふたり。英国ロイヤルなので、マクミラン版です。
ロミ・ジュリも鑑賞機会が多い作品の一つで、ライブでDVDでと色んなダンサーの踊りを観てきましたが、昨年の来日公演でのフランチェスカのジュリエット・デビューを見逃していたので(急きょの配役変更だったので)、こちらも楽しみにしていました。
可憐な雰囲気も、軽くて細やかな足さばきも、フランチェスカのスタイルがジュリエットの役柄&振付にぴたりとはまっていて、なんてラブリーなジュリエットなんでしょう~!と始終笑みを浮かべて鑑賞。
マント&アイボリーのギャザーたっぷりトップス、というロミオの衣装がこれまたハマりにハマってステキなボネッリ。この方の舞台上でのキャラの立ちようは、役者さんみたいです。
マクミラン版では、女性をさかさまに高々と持ち上げるX字形リフトや、弓型に反った女性を持ち上げるスクワットみたいなリフト(×3回)があって、これらをハズすと台無しになっちゃうのですが、美しくキマっていて詩情あふれるデュエットでした。
第2部・パリ・オペラ座チーム
この日の後攻は、オペラ座。メリハリの効いたクリアなスタイルの英国ロイヤルから一転、エレガントで香り立つようなフレンチ・スタイルの踊りを愉しみます。
『白鳥の湖』第2幕よりパ・ド・ドゥ
出演:ミリアム・ウルド=ブラーム、マチアス・エイマン
ヌレエフ版の白鳥、王子とオデットの出逢い後のパ・ド・ドゥ。
華奢ではかなげ、浮世離れした透明感があるミリアムのオデットは、名作バレエ漫画『SWAN』の"リリアナ"みたいでした…!2日後のBプロを観た際にも感じたのですが、重力や身体能力の制限を全く感じさせず、あまりにも軽く何気なく踊られるので、そのかけがえの無さを見過ごしてしまいがちですが、よくよく考えてみると、あんな踊りが見せられる人間はまずいない…稀有な存在感をもつダンサーだと思います。
この演目では見せどころがほぼなく、サポートに徹していた感のあるマチアス。振付上仕方がないけれど、踊りを・踊りを見せて~!と、2演目後のソロへの期待感が一層募りました。
『白鳥の湖』第3幕よりパ・ド・ドゥ
出演:レオノール・ボラック、ジャルマン・ルーヴェ
当初は、同作品3幕のパ・ド・トロワが踊られる予定だったのですが、フランソワ・アリュがケガで降板となったことにより演目変更で上演の運びとなった黒鳥と王子のパ・ド・ドゥ。Va.~コーダも含めてフルで踊られました。
ミリアム同様、華奢でか細い妖精さんタイプのボラックちゃん、オディールの大胆で妖艶な役柄はぴったりとは言い難いものがありましたが、とてもいい表情で雰囲気づくりをしていらしたように思います。
たまにぐらついたりしていてヒヤリとする場面があったので、コンディションが良くないのかな?と思っていると、コーダでの32回転が完遂できず、途中で止めてしまっていました。ボラックちゃん=ミスしないという印象があったので、時差や気候の違い(それも日本人でさえバテちゃう真夏)を乗り越えて踊ることの大変さを垣間見た気が…。
ボラックちゃんの32回転途中退場を頑張ってカバーせんとしていたルーヴェくん、美しいボディラインやオペラ座らしいエレガントさは買いたいところですが、動揺すると踊りに出るタイプなのか、本来の力が発揮できていなかったように見受けられました。翌々日のBプロでも、いろいろハラハラ場面があったし(^^;)、メンタル面や舞台さばきみたいな部分では学びの過程なのかもしれませんね(上から目線ですが、息子でもおかしくないトシだし、お許しを)。
『エスメラルダ』パ・ド・ドゥ
出演:オニール・八菜、ユーゴ・マルシャン
ブノワ賞の受賞後グンと日本メディアへの露出が増え、バレエ・ファンならずとも知名度が高くなったオニール・八菜さん。4か月前のエトワール任命で、これまた注目を集めるユーゴとのカップリングはいかに?!と楽しみにしていた演目でした。
2人がステージに現れると、わあっ…と観客が盛り上がったのがわかります。大柄なプロポーションだけでなく、燦然と輝く存在感たっぷりで、舞台映え度の高いカップル! Diorの香水"ポワゾン"みたいなちょっと妖しいエキゾチックな魅力が感じられます。
安定感ある踊りの相性も素晴らしく、これからもこのペアでの踊りが観たい!と強く思いました。
ちなみに、エスメラルダのVa.は、コンクールで良く踊られるタンバリンを持っての踊り。美しいジプシーの娘が披露する踊りなので、観るものを魅了しなければならない踊りですが、八菜さんの観客を惹きつけるような妖艶さがぴったり役柄にはまっていて、素敵なエスメラルダでした。
『マンフレッド』
出演:マチアス・エイマン
当初は予定されていなかった演目ですが、フランソワ・アリュの降板によるプログラム再編で急きょ上演が決まった今作。キャストシートに書かれている作品解説によると、"超人的人物のマンフレッドが自己忘却を求める物語"だそう。振付けはヌレエフ。
苦悩や悲しみを表した作品は、ともすれば薄っぺらく見えたり、ハテ…何に苦悩してたの?と理解が難しかったりしますが、さすがマチアス!!! 短い時間の中で、もがき苦しむ魂を身体全体を使って、美しい残像が脳裏に残る踊りで、存分に魅せてくれました!思わず『いや~、いいもの見たわ…』とつぶやいちゃっいました。
第3部・『ドン・キホーテ』ディヴェルティスマン:英国ロイヤル&オペラ座合同チーム
「ディヴェルティスマン」とい言葉には、"余興"の意味があり、物語の本筋に関わりなく愉しみや多彩さを加えるために踊られる多種多様な踊りを指します。
今ガラ公演を締めくくるのは、お祭り的な雰囲気にぴったりなドンキから様々な場面を抽出した踊り。
舞台にずらりと現れたキトリ&バジル、それぞれのカンパニー定番の衣装をまとっています。『そうそう、オペラ座は最後のウエディング場面がなぜか黄色の衣装なのよね!』などと過去の映像が頭の中でよみがえる感覚が嬉しい!
大好きなフランチェスカによるキューピッドのソロは、コケティッシュな魅力にあふれていて、手足が動くたび小さい星の粉が飛んで出ていそう!これまで観たどのキューピッドよりも魅せられました。
次から次へと素晴らしい踊りが、超・豪華な顔ぶれで展開されていき、観客の盛り上がりも最高潮となったところで終幕。ああ、シアワセ…終わらないで…と至福の時を満喫したのでした。
全体的な感想
英国ロイヤル&オペラ座、筆者が一番好きな2大カンパニー揃っての、まさに夢の企画! 開催決定を聞いた時には、耳を疑うほど嬉しかったので、待ちに待った公演の日には期待値も上がるところまで上がりきっていました。
そんな高い期待を裏切らない、サービス精神にあふれたプログラム編成と綺羅星のようなダンサーたちによる素晴らしい踊り。夢の公演を日本で実現させてくれて、本当にありがとう!と感謝しきりです。
あれも、これも、まだまだ観たい踊りがいっぱいあるのですが…わがままですね^^;次回のお楽しみにとっておきます。
~reverence~